<この記事について>
バードバスは、企業緑地の生物多様性向上に貢献する手軽な水場です。特に「循環式バードバス」は水源不要で、トレイルカメラと併用し、野鳥の飛来状況を長期的にモニタリングできます。また、自然共生サイト申請やABINC認証取得に寄与し、ウェルビーイング向上や環境教育にも繋がります。
バードバスをご存知ですか? バードバスとは、庭や公園などに設置する、野鳥が水を飲んだり水浴びをするための浅い皿状の人工的な水場です。特に都市部では自然の水源が少ないため、野鳥にとって貴重なオアシスとなります。
「ちいかんラボ」へようこそ。地域環境計画プロダクト営業部の印部です。
こちらの動画は、私が大阪支社にいたころに設置していた循環式バードバスに訪れた生きものたちを記録したものです。
企業緑地の生物多様性向上における課題とバードバスの可能性
ここ数年、企業の緑地を生物多様性に配慮したものへと改善する取り組みは、もはや単なるCSR(企業の社会的責任)の時代を超え、地域社会への環境貢献を示す上で不可欠なものとなっています。かつて画一的だったオフィス街の植栽も、高木、中低木、草本など、在来種を取り入れた階層性のある美しい景観へと変化してきました。
こうした緑地の改善自体が、生物多様性への配慮を示す企業努力として高く評価されるべきものです。しかし、さらに積極的な企業様からは、オフィスの緑地に野鳥を呼び込みたい、そして実際に野鳥が訪れていることを確認したいというご要望をいただくことがあります。当社も専門家として現地調査に伺うことがありますが、都市部の孤立した緑地に野鳥が訪れる機会は限られており、年間数回の調査では、緑地を利用する野鳥の全てを網羅的に確認することは難しいと感じていました。これは、野鳥の活動時間の不規則性や、人の存在が警戒されることなどが要因です。
そこで、私たちは日頃の生物調査で使い慣れたトレイルカメラの活用を検討いたしました。しかし、ただ生物多様性に配慮した植栽がなされた樹木にカメラを設置するだけでは、野鳥が偶然写る可能性は低く、より多くの野鳥が自然に集まる環境づくりが必要だと感じていました。
身近で手軽な水辺の設置
野鳥は大変きれい好きで、適度な深さの水辺があれば、水を飲んだり水浴びをするために頻繁に訪れます。この特性を活かせば、緑地の中に水辺を作ることで、野鳥がその存在に気づき、頻繁に立ち寄ってくれるはずですし、そうすることで、企業敷地内の生物多様性が向上します。
しかし、大規模な水辺を創出すると、ビオトープ作りの経験がある方にはお分かりのように、急激に多種多様な動物、例えば在来種だけでなく外来種、さらには人間にとっては害虫と感じる生物も集まることがあります。都市部では、これにより周辺住民への迷惑が懸念されたり、維持管理の手間が増えるといった問題が生じるため、導入のハードルが高いと感じる企業様も少なくありません。
そのような企業様には、まずはバードバスの設置をご検討いただくことをお勧めします。
当社「循環式バードバス」の特長
特に、水源がない場所でも設置可能な当社の「循環式バードバス」は、手軽に水辺を導入できる画期的なアイテムです。
当社の「循環式バードバス」の主な特長は以下のとおりです。
1.設置場所を選ばない
ソーラーパネルで駆動するため、水源のない場所にも手軽に設置できます。
2.景観に馴染むデザインと拡張性
市販製品と異なり、緑地の景観に馴染むようにデザインの融通がきき、タライ(水を貯留する容器)をホースで連結して拡張性を高めることができます。
3.長期的なモニタリング
トレイルカメラを併用すれば、野鳥の飛来状況を長期的に記録でき、生物多様性モニタリングツールとして活用できます。
- 近距離撮影に優れ、バードバスのモニタリングに最適なトレイルカメラ「WAMキャプチャー05」については、鳥獣被害対策ドットコムをご参照ください。
4.環境教育ツール
ご家族で組み立てることも可能で、手軽なDIYや環境教育の機会として楽しんでいただけます。
設置する際の留意点
「循環式バードバス」を設置する際に留意すべき点は以下のとおりです。
水の定期的な交換と清掃
野鳥はきれい好きで、病気の発生などを防ぐため、定期的な水の交換と清掃が不可欠です。雨水を利用し、利用後の水を地下浸透させるのが理想ですが、緑地管理のためにスプリンクラーが設置されている場合は、その散水された水をバードバスに活用する仕組みを整えることも検討できます。水を貯めておくタライは2個設置し、ホースを使ってサイホンの原理でつないでおくと、水の汚れの確認と交換が容易になります(例:片方の水を抜くと、もう片方から自動的に補充される仕組み)。
設置場所の選定
野鳥は大変臆病です。そのため、開けた場所に設置すると訪れる野鳥は少なくなります。上空にタカやカラスが出現した際にすぐに逃げ込めるような茂み(藪)がある場所が設置に適しています。猫などの捕食者が生息している場合、藪に近い場所では襲われる危険性もゼロではありませんが、これまでの複数箇所での設置経験では、猫も水を飲みに訪れるものの、幸いなことに野鳥を襲う場面は確認されていません。バードバスの設置場所は、野鳥が安心して利用でき、かつ管理がしやすい場所を、状況に応じて試行錯誤しながら見つけていくことが重要です。
企業が「循環式バードバス」を設置するメリット
特に、生物多様性に関する取り組みを実施したい企業の方向けに、「循環式バードバス」を自社の敷地に設置するメリットを述べましょう。
地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」申請への貢献
「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」(地域生物多様性増進法)に基づく自然共生サイト(増進活動実施計画・連携増進活動実施計画)への申請を検討される場合、都市部の緑地では、以下の基準が自然と選択肢に挙がりやすいでしょう。
- 基準8:
「越冬、休息、繁殖、採餌、移動(渡り)など、動物の生活史にとって重要な場としての価値」 - 基準9:
「既存の保護地域又は自然共生サイト認定区域に隣接する若しくはそれらを接続するなど、緩衝機能や連続性・連結性を高める機能を有する場」
申請にはこれらの機能を証明する資料の添付が必要ですが、従業員が緑地改善活動に積極的に参画し、指標種(今回の場合は野鳥)を適切に選定し、トレイルカメラのデータを使って長期的にモニタリングを続けながら緑地の改善活動を継続することが、現実的で無理のない活動計画になると思います。
ABINC認証取得への寄与
当社も運営に携わるABINC認証(「いきもの共生事業所®」は一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)の登録商標であり、ABINCはこの認証制度を運用)は、企業や団体等の生物多様性保全活動を客観的に評価し認証する制度です。この認証を得るためには、多様な生物多様性への配慮が求められます。「循環式バードバス」の設置はABINCの評価項目と深く関連し、以下の具体的なメリットをもたらします。
- 水辺環境の創出:
鳥類にとって不可欠な水源を提供することで、都市部の緑地における生物多様性の向上に貢献します。また、タライを連結し、その一部に水生植物を植栽するなどしてトンボ類に産卵場を提供すれば、ABINC認証は水生生物の生息環境の創出も評価対象となるため、評価向上につながります。ただし、水辺の創出は同時に外来生物の導入につながる恐れもあるため、定期的なチェックが必要です。 - 社内啓発および情報発信:
従業員が野鳥の訪れる様子を観察することで、生物多様性への関心を高めるきっかけとなります。また、ABINC認証企業として、「循環式バードバス」の設置を通じて生物多様性保全の取り組みを外部にアピールできます。広報活動やCSRレポートに掲載し、企業の環境に対する姿勢を明確に示し、生物多様性保全に取り組む仲間を増やす活動を実施することも、ABINC認証では評価ポイントとなります。
従業員のウェルビーイング向上とエンゲージメント促進
緑地内に水辺が生まれ、野鳥の飛来状況をデジタルサイネージなどで社内に発信すれば、従業員のストレス軽減や生産性向上に貢献し、環境保全活動への参加意欲を高めることにもつながるでしょう。
東京オフィスでの試験設置事例
次に、当社の東京オフィス4階に試験設置した日本庭園での事例をご紹介します。
東京オフィスは住宅街やマンション、商業施設に囲まれた環境にありますが、野鳥の姿を時折見かけます。しかし、生物調査を専門とする当社でも、鳥類を専門としない社員からは、会社周辺にどのような鳥が生息しているか明確には分からないという声がありました。
そこで、2025年7月8日から「循環式バードバス」を設置し、観察を開始しました。この時期は都市部の野鳥の観察時期としては、繁殖期の終盤からヒナが巣立つ時期にあたります。渡りの時期には早いため、会社周辺で繁殖し、都市部に定着している鳥類が訪れるものと考えられます。
設置初日の7月8日には、早くもスズメがやってきました。
スズメは日本全国の都市部や農耕地で最も身近に見られる鳥の一つで、集団で行動し、人間の生活圏で採餌や営巣を行うことが特徴です。
設置から4日目の7月11日の夕方には、メジロが訪れました。
メジロは比較的小型の鳥で、目の周りの白いアイリングが特徴です。市街地の庭木や公園でもよく見られ、花の蜜や果実を好んで食べます。
バードバスに設置されたトレイルカメラからは、野鳥の飛来状況が現在も自動的に記録されており、これらのデータは今後、オフィス周辺の生物多様性評価に役立てる予定です。さらに、AIによる指標種の自動カウントに関する研究も開始しており、より効率的なデータ解析を目指しています。また、将来的には、このデータを社内ネットワークやデジタルサイネージで共有し、社員が気軽に野鳥の姿に触れられる機会を創出したいと考えています。そして、これは単なる情報提供に留まらず、従業員の環境意識向上やウェルビーイングにも繋がるものと期待しています。
私たちの取り組みは、企業の緑地が地域全体の生態系ネットワークの一部となり、都市の生物多様性向上に寄与すると考えています。バードバスを通じて野鳥が都市に憩いの場を見出すことは、人間と自然が共生する持続可能な社会の実現に向けた、重要な一歩となるでしょう。
さらに、このバードバスの設置は、学校の環境学習教材としても最適です。子供たちが実際に野鳥が水を飲みに来る様子を観察することで、生命の尊さや自然とのつながりを肌で感じられるでしょう。また、ご自宅の庭やベランダに設置して、気軽にバードウォッチングを始めるきっかけにするのもおすすめです。毎日の暮らしの中で、小さな命の営みに触れることで、日々の生活に彩りが加わるかもしれません。
資料のダウンロード

循環式バードバスの資料は下記ボタンよりダウンロードできます。

印部 善弘
Yoshihiro INBE
株式会社 地域環境計画 プロダクト営業部
- 技術士(建設部門:建設環境)
- 技術士(環境部門:自然環境保全)
- 鳥獣保護管理調査コーディネーター(環境省)
- 国内旅行業務取扱管理者
- 1級ビオトープ計画管理士

